BNY(Bank of New York Mellon)が内製AIアシスタント「Eliza」を全社に展開し、契約審査時間を75%削減(4時間→1時間)する成果を上げた。2万人以上が125以上の業務ユースケースで活用するこの基盤は、規制業種でのAI全社展開モデルとして注目を集めている。

48兆ドルを動かす組織が抱えていたバックオフィスの壁

BNYは世界最大の資産カストディ銀行だ。48兆ドル超の資産を管理し、決済・資産管理・コンプライアンスなど複雑な金融インフラを毎日支えている。

これほどの規模になると、バックオフィスの課題も巨大だ。毎日処理される契約書、照合作業、コンプライアンスチェックの量は、人手だけでは追いつかない。特に契約審査は1件4時間かかっていた。担当者が書類を探し、確認し、記録する繰り返しに時間を奪われていた。

金融業界でAI導入が遅れがちな理由は、規制対応の難しさにある。「機密データを外部サービスに送っていいのか」「AIの判断をコンプライアンス上どう位置づけるか」——こうした疑問が、AI活用の足かせになり続けてきた。

外部依存ゼロ——内製プラットフォーム「Eliza」という選択

BNYが選んだのは外部ベンダーのSaaSではなく、自社開発のAIプラットフォーム「Eliza」だ。

設計の核心は、データを自社インフラから外に出さない構造にある。機密性の高い金融データを処理しながら、規制上のリスクを回避できる。クラウドサービスに送信するのではなく、自社環境内でモデルを動かす。この判断がコンプライアンス部門の承認を早めた。

Elizaは特定業務専用のツールではなく、125以上の異なるユースケースに対応できる汎用基盤として設計された。契約書の検索、社内ナレッジへの問い合わせ、決済処理の補助——部門をまたいで同じプラットフォームを使えるよう統一されている。全社AI展開を5万人規模で実現したTELUSのケースでも同様に、統一AI基盤の構築が展開速度の鍵になっている。

4時間が1時間に——契約審査での定量成果

2026年1月の公式発表で明らかになった数字は具体的だ。契約審査にかかっていた4時間が1時間に短縮(75%削減)。数万時間規模の業務時間が戦略的業務へ転換され、アナリストや法務担当者は書類確認の繰り返し作業から解放された。

2万人以上が日常的にElizaを使っている。特定部門だけの試験導入ではなく、バックオフィス全体での本番運用だ。規制業種でこの規模の展開が成功した事例は多くない。

「AIは補助」という設計思想が承認を通した

大規模展開が実現できた理由のひとつは、AIの役割設定にある。Elizaは判断を下さない。担当者の判断を速くするツールとして位置づけられている。

契約書のレビューでも、AIが「承認」や「拒否」を決定するわけではない。関連条文を抽出し、確認ポイントを整理し、人間の確認作業を速くする補助に徹する。この設計がコンプライアンス審査の通過を容易にした。

金融機関でAI導入が難しいとされるのは、多くの場合「AIに決めさせる設計」にしようとするからだ。BNYは最初からその壁を避けた。

日本の金融機関が参考にできるポイント

BNYの事例が示すのは「規制業種でもAI全社展開は可能」という実証だ。条件は2つ——データを外に出さない内製設計と、AIを人間の判断の補助に徹させること。この2点がそろって初めて、コンプライアンスの壁を越えられる。

法務・コンプライアンス担当がAIに任せていい業務は、まず「検索と整理」から始まる。BNYも同じだ。125ユースケースのうち多くは、情報を探す・まとめる・確認ポイントを洗い出すという補助業務で構成されている。

「どこから始めるか」に迷っているなら、まず自分のチームで一番時間がかかる繰り返し確認作業を測ることから始めてみてほしい。BNYの4時間は、日本の現場でも必ず探せるはずだ。

ドリップドリップ(執筆)

「規制があるから無理」——そう言いながら先送りにしていた気持ち、よくわかります。BNYの話を読んで、その前提の立て方が間違っていたんだと気づかされました。

4時間かかっていた作業が1時間になる体験は、担当者の仕事観を変えます。「自分の仕事はここまで速くなる」という実感が次のユースケースを生む。125もの活用事例は最初からあったわけではなく、そういう積み重ねで増えていったはずです。

まず1つ、測ってみましょう。自分のチームで一番時間がかかる繰り返し作業を。

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