Walmartが内製AIエージェントを活用し、2,000社超のサプライヤーとの調達交渉を同時自動化することに成功した。

世界最大の小売業が直面していた調達の壁

Walmartは毎日数億点の商品の在庫を管理しながら、世界中の数千社のサプライヤーと価格・数量・条件を交渉し続けている。その規模は一般企業と比較にならないが、課題の構造はシンプルだ。在庫不足の原因特定に数時間かかること、そして各サプライヤーとの交渉を少数の担当者が一社ずつ担当していること——どちらも「人間の時間」が上限になってしまう業務だった。

担当者が同じ確認作業を繰り返しながら、膨大なデータを手作業で照合する。需要予測と実際の在庫数、サプライヤーの出荷状況をかけ合わせて問題の根本原因を探る——そのプロセスに数時間を費やすことが当たり前になっていた。

在庫診断「Wally」と調達交渉エージェントの設計

Walmartは外部ツールに頼らず、社内でAIエージェントを開発した。在庫管理向けの「Wally」は、需要予測データ・サプライヤーの出荷状況・配送ネットワークの情報を統合し、在庫不足の原因と対策を瞬時に提示する。担当者がスプレッドシートを掘り返す必要はなくなった。

別途開発された調達交渉エージェントは、2,000社以上のサプライヤーと並行して交渉を進める。商品カテゴリごとに価格・数量・条件を評価し、合意できる落とし所を自動で導き出す設計だ。Cloudflareが内製AIエージェントで1,100人分の業務を代替した事例と同様に、Walmartも汎用ツールではなく自社の業務ロジックに合わせた専用エージェントの内製化を選んだ。

在庫診断は数秒に、開発者の年間400万時間を削減

成果は数字に表れている。在庫不足の診断にかかる時間が「数時間から数秒」に縮まった。2,000社超のサプライヤーとの交渉を少人数チームで同時にこなせるようになり、開発エンジニアの作業時間は年間400万時間削減できる見込みだ。AIエージェントが繰り返し業務を担うことで、人間は判断が必要な例外対応に集中できる体制が整った。

内製を選んだ理由と成功の要因

Walmartが自社開発にこだわったのは、業務の複雑さと機密性の両方が理由だ。サプライヤーとの交渉ロジックは業種固有で、既製品では細かいビジネスルールを組み込みにくい。また、数億点の商品データを外部サービスに流すリスクも避けられる。長年蓄積してきた需要予測データと取引履歴が、AIエージェントの精度を底上げする資産になっている。

コロンビアの物流企業DominaがGoogle Geminiで年間2,000万件の荷物追跡を自動化した事例でも示されているように、サプライチェーンのデータをAIにつなぐ取り組みは今、実証フェーズから本番運用フェーズへ移行している。

「繰り返し交渉」が多い業務から始める

Walmartの規模は特別だが、この設計思想は業種・規模を問わず応用できる。取引先が多く、担当者が同じ確認・交渉を繰り返している業務は、AIエージェントの恩恵を受けやすい。食品メーカーの原材料調達、製造業の外注管理、流通業の在庫補充——いずれも同じ構造を持つ。まず社内で最も「繰り返し」が多いやりとりを一つ選んで、その判断ロジックを書き出すところから始めることができる。

ドリップドリップ(執筆)

2,000社と「同時に」交渉するって、最初はちょっと信じがたい話に聞こえますよね。

でも交渉の中身を分解してみると、多くは「価格の比較」「条件の確認」「落とし所の提案」というパターンの繰り返しです。そこにAIが入れば、人間がやっていた反復作業の大部分は代替できる。

自社に当てはめたとき「うちのどの業務がこれに近いか」を考えてみると、けっこう見えてくるものがあると思います。

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