EricssonがSAP JouleとSAP Business Data Cloudを活用し、85,000人規模でのAI全社展開と年間90,000時間の業務削減を実現した。

「パイロット止まり」の根本にあるもの

AIを試験導入しても成果が出ない——その背景に、データの問題がある場合が多い。各部門が独自のシステムを持ち、情報が分散した状態ではAIアシスタントは的外れな回答しか返せない。

Ericssonもその課題に直面していた。180カ国以上に展開するB2B通信機器・ITソリューションの大手として、製造・調達・HR・財務などのデータがSAPの複数システムに散在していた。AIを動かす前に「信頼できるデータ基盤」を作る必要があった。

SAP JouleとData Fabricを組み合わせた土台設計

Ericssonが選んだのはSAPのAIアシスタント「Joule」と、それを支える「SAP Business Data Cloud」の組み合わせだ。

SAP Business Data CloudはSAPの各システムに散在するデータを統合管理するプラットフォームで、「データファブリック」という設計思想に基づく。JouleはこのData Cloud上のデータをリアルタイムで参照できるため、部署横断の問いに対しても精度の高い回答を返せる。

個別業務ツールとしてAIを追加するのではなく、ERP全体の情報基盤を整えてからAIを乗せる——この順番こそが、Ericssonのアプローチの核心だった。SAP Jouleの展開初期に情シスがおさえるべきポイントも、まさにこのデータ整備と連動している。

2026年5月、SAP Sapphire 2026で公表された成果

EricssonはSAP Sapphire 2026カンファレンスで、Joule全社展開の成果を初公開した。展開対象は85,000人、年間削減時間は90,000時間。

フルタイム換算で40名超の工数に相当する数字が、ツール導入だけで生まれた余力だ。会議の事前準備・社内情報の検索・レポート下書きなど、繰り返し発生する業務の多くをJouleが担うようになった。PwCが23万人にCopilotを展開し1.5億ドルを削減した事例と並ぶ規模感で、大企業のAI全社展開が着実に現実のものになっている。

なぜ全社展開まで到達できたのか

多くの企業がパイロット段階で止まるのは、ツール選定を急いでデータ整備を後回しにするからだ。AIが正しい情報にアクセスできない状態では、現場には定着しない。

EricssonはSAP Business Data Cloudで情報基盤を先に整えた。Jouleは常にERP内の最新データを参照できるため、使うたびに精度が担保される。「信頼できる」という体験が積み重なって、85,000人が日常業務にJouleを組み込むまでになった。

自社に活かすなら、まずここから

この事例から学べることは一つだ——AIを入れる前に、データの信頼性を確認する。

「ERPはある。でも部門ごとにデータ定義がバラバラ」という状態は日本企業でも珍しくない。その場合、Ericssonが採用したData Cloud的なアプローチ、つまりデータ統合基盤を先に作る設計が有効になる。

AI推進を担うなら、AI導入の最初の3ヶ月でやるべきことを参考に、まずデータの現状把握から始めることをすすめる。ツールより先に、土台が決め手になる。

ドリップドリップ(執筆)

「AIを試したけど、なんかうまく使えない」という声、よく聞きます。その正体はツールではなく、データの問題だったりするんですよね。

Ericssonがやったことはシンプルで、AIを賢くするより先に、データを信頼できる状態にすること。この順番の違いが、全社展開の成否を分けた。

「まずデータを整えよう」と動き出せるのは、あなたの職場でも今日からできることです。

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