Morgan Stanleyが DevGen.AI を活用し、9百万行を超えるレガシーコードの自動変換・レビューを実現。15,000人の開発チームが計280,000時間の手作業から解放された。
数十年分の技術負債が開発速度を奪っていた
投資銀行・証券業務を軸に展開するMorgan Stanleyは、グローバルで15,000人以上のエンジニアを抱える。金融システムとしての信頼性は高い一方、長年にわたって積み上げてきたコードが技術スタックの老朽化を招いていた。古いCOBOLや旧世代のJavaで書かれたシステムは、業務ロジックが複雑に絡み合っており、現代のアーキテクチャへの移行は容易ではなかった。
問題の核心は、変換作業の工数にあった。仕様を理解した上で一行ずつ確認する必要があり、ベテランエンジニアでも集中力と時間を要する。チームが大きければ大きいほど、この作業の総量は膨れ上がる。結果として技術負債の解消は常に後回しになり、新機能の開発に充てるリソースが圧迫され続けた。
「AIが下書き、人間が判断」——DevGen.AIの設計
同社が導入したのが、AIコードレビュー・変換自動化ツール「DevGen.AI」だ。レガシーコードをAIが解析し、現代的な言語・アーキテクチャへの変換候補を自動生成する。担当のエンジニアはその提案を確認してマージするだけでよい。
重要なのは、変換を「AIが完結させない」構造になっている点だ。提案はAIが行うが、最終承認は必ず人間が担う。銀行・証券業界では規制対応の観点からコードの品質基準が特に厳しく、完全自動化は受け入れられにくい。DevGen.AIはその現実に正面から向き合い、人間の判断を前提とした設計を徹底した。複雑な金融業務ロジックを含むコードでも変換精度が担保されている点が、大規模組織での採用を後押しした。
9百万行・280,000時間削減の実績
成果は数字で確認できる。AIがレビュー・変換処理したコード量は9百万行超。開発者全体で削減された工数は合計280,000時間に達した。15,000人で換算すると、一人あたり約18時間の節約に相当する。
その時間が、顧客向けプロダクト開発や新技術の検討に使えるようになった。手作業のコード変換を繰り返す業務から、判断が必要な高付加価値の仕事に人材がシフトした。
成功の条件——「完全自動化」を目指さなかったこと
大規模展開を成功させた要因のひとつは、AIの役割を「補助」に限定したことにある。変換ルールや品質チェックの基準を一元管理できたことも大きい。15,000人の開発組織がバラバラのやり方でコード変換すれば、品質のばらつきが生まれる。統一ツールを使うことで、チームごとの差異を排除しながら全体の生産性を底上げできた。
規制が厳しい業界ほど、「誰が最終判断を下すか」が明確でないとAIツールの導入は進まない。Morgan Stanleyはその設計を正しく行ったことで、金融機関という特殊環境でも組織全体への展開に成功した。
自社の開発チームに置き換えて考える
Morgan Stanleyほどの規模でなくても、同じ課題を抱えている組織は多い。「保守だけで手が埋まり、新しいものを作る余裕がない」「仕様を把握しているエンジニアが少なくなった」。こうした状況こそ、AIコードレビューが最も効果を発揮する場面だ。
大規模移行プロジェクトを一気に立ち上げるより、まず対象リポジトリを絞って試すのが現実的だ。AirbnbがAIコーディングで生成コード比率を60%まで高めた事例でも示されているように、エンタープライズ規模の組織でもAIを開発フローに組み込む取り組みは今や共通のスタンダードになりつつある。技術負債を「いつかやる」から「AIに少しずつ任せる」に切り替えるタイミングは来ている。
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「積んどくコード」問題、心当たりがある方は多いと思います。
今回一番面白かったのは、「AIに全部任せない」という設計思想が、かえって大規模展開の突破口になったこと。完璧を目指すより、人間が最後に判断する構造を残した方が現場に受け入れてもらいやすい——これは開発以外の業務でも使える発見でした。
まず一つのリポジトリで試してみる、その小さな一歩が28万時間への入り口かもしれません。