北欧最大級のホテルチェーンであるStrawberry(旧Nordic Choice Hotels)がGoogle Cloud Vertex AIを活用し、年間36,000時間の業務時間を取り戻しました。230以上のホテル・約1.8万人の従業員という規模で、マルチエージェント運用が動いている事例です。
店舗ごとに運用ルールが違う問題をどう解いたか
ホテルチェーンの運営で長年つきまとってきた課題が、店舗ごとのローカルルールの違いです。チェックイン手順、駐車場対応、朝食の提供時間、地域特有の観光情報。本部が標準マニュアルを用意しても、実際は店舗ごとに微妙にルールが違い、新人スタッフ教育や応援スタッフの対応で「この店舗ではこう違う」が頻発します。
従来のチャットボットでは、この粒度の違いに追従できませんでした。一律の応答しか返せないため、現場では「結局先輩に聞いた方が早い」となり、定着しません。
RAG構成で「拠点ごとに人格が違う」エージェントを構築
Strawberryが選んだのは、Google Cloud Vertex AI Agent Builder と Gemini を基盤にしたRAG(Retrieval-Augmented Generation)構成です。社内向けには『Scout AI』、ゲスト向けには『Lykke』などホテルごとのペルソナを持つ『Sister Agents』を運用しています。
各エージェントは、店舗ごとのナレッジベース(マニュアル、ローカル情報、運用記録)を参照しながら回答します。同じ「朝食は何時から?」という質問でも、店舗ごとに異なる正確な情報を返します。本部はこれを「拠点ごとに人格を分けたエージェント群」として運用しており、ナレッジ更新がそのままサービス品質に直結する仕組みになっています。
具体的な数字:年36,000時間 / ゲスト満足98%ポジティブ
導入後の成果はDevoteamのケーススタディで公開されています。
- 年間36,000時間を解放(従業員側で25,000時間/ゲスト側で11,000時間)
- ゲスト体験で98%ポジティブセンチメント
- 230以上のホテル・約1.8万人の従業員で運用
1.8万人規模で年36,000時間というと、1人あたり年2時間程度です。少ないように見えますが、ホテル業務はそもそも人手をかけて対面で動く仕事です。その中で2時間が「マニュアル探し」から「ゲスト対応」に回ったインパクトは小さくありません。
なぜうまくいったか——「一律の応答」を諦めた
成功要因は、「全店舗で統一の答えを返す」という従来のチャットボット設計を捨てたことです。代わりに、拠点ごとに違う情報を持たせ、エージェントが個別に応答する設計にしました。
RAG構成により、ナレッジベースの更新がリアルタイムで応答に反映されます。本部が新しいキャンペーン情報を入れれば、その日からエージェントが正しく案内します。これは従来のFAQベースのボットでは難しかった点です。
日本のサービス業に置き換えるとどう活かせるか
この事例から、日本の多店舗展開・チェーンビジネスが取り入れられる要点は2つあります。
1つ目は、社内マニュアル検索の効率化です。飲食、小売、宿泊、医療など、現場で「マニュアルを探して止まる時間」が発生する業態は、Vertex AIや類似のRAG構成で時間を取り戻せます。
2つ目は、店舗・拠点ごとの差を「無くそう」とせず「エージェントに記憶させる」発想です。店舗ごとのローカル情報をナレッジ化することで、新人や応援スタッフの立ち上がりが速くなり、本部のマニュアル統制の負担も下がります。
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「店舗ごとに違うから一律のシステムは使えない」を、技術側でなく運用側で解いた事例です。各店舗にエージェントを持たせる、というシンプルな発想ですが、これがチェーン業務にハマっています。
日本でも、コンビニ・カフェ・ドラッグストア・銀行支店など、ローカルルールが多い業態は山ほどあります。Vertex AIはMicrosoft 365 Copilotとは違うアプローチが取れるので、Google Workspace環境の企業には選択肢として大きい。
「全店舗で同じ答え」を諦めるところに、新しい品質が生まれます。