Macquarie BankがGoogle Gemini Enterpriseを活用し、7ヶ月で従業員5,000名の80%が毎日利用する全社AI定着を実現、13万時間の生産性を回収した。

「導入」ではなく「定着」が壁だった

オーストラリアの大手銀行Macquarie Bankは、金融業界の中でもデジタル変革に積極的な組織として知られる。しかし直面していた課題は「AI導入」ではなく「AI定着」だった。ツールを配っても、継続して使い続けるのは一部の部門だけ。大半の従業員に「業務で本当に役立っている」という実感が生まれていなかった。

金融機関には特有の難しさもある。顧客データのセキュリティ要件、コンプライアンス上の制約。現場が「これを使っていいのか」と迷う場面が多く、それが導入後の停滞につながっていた。

全5,000名への展開——設計の鍵は「現場の自由度」

2024年後半、同行はGoogle Gemini Enterpriseを全行員5,000名に一斉展開した。経営層がユースケースを規定するのではなく、従業員が自分の業務課題に合った使い方を自ら発見できる設計を採った。文書の要約・メール下書き・データ分析・顧客対応レポートの自動生成など、業務領域ごとに「今日から使える」状態を整え、小さな成功体験を積み重ねていく仕組みにした。

コンプライアンスとデータセキュリティの基盤はGoogleと共同で事前構築した。展開前に規制対応の土台を固めたことで、現場が「使っていいのか」と迷う余地をなくした。この先行投資が、後の定着率を大きく左右した。

7ヶ月で130,000時間の生産性を回収

展開から7ヶ月後、同行は130,000時間の生産性回収を報告した。5,000名のうち80%、つまり4,000人以上が毎日Geminiを使い続けている計算だ。

定着率80%という水準は、全社展開に取り組む多くの企業が達成できていない数字だ。スタンフォードAI Index 2026によれば、AIを中核業務で活用できている企業は導入企業全体の17%に留まる。Macquarie Bankはその壁を明確に越えた事例として、銀行業界のベンチマークとなりつつある。

Google Geminiを活用した他の事例では、MattelがGoogle Gemini×BigQueryで顧客フィードバック分析を100倍速にした取り組みが参考になる。ツールは同じでも、用途と展開設計の違いで成果の形が変わることがわかる。

8割が使い続けた3つの理由

成功要因は3点に絞れる。

1点目は「使い方の自由度」。ユースケースをトップダウンで固定せず、現場が自分の課題から使い道を見つけた。押しつけられたツールは使われない。選んで使ったツールは続く。

2点目は「規制対応の先行整備」。金融機関特有のコンプライアンス要件をGoogleと共同で解決してから展開した。現場が「セキュリティ的に大丈夫か」と立ち止まる場面が最初からなかった。

3点目は「ROIの月次可視化」。削減時間を毎月の指標として経営層と現場が共有し、成果が次の利用の動機になった。JPMorgan ChaseがLLMエージェントで投資銀行業務を再構築した事例でも、成果の可視化が定着を加速させた構造は共通している。

自社に活かすなら

AIツールを入れるだけでは定着しない。従業員が「これで自分の仕事が速くなった」と実感できる構造を設計しなければ、数ヶ月で使われなくなる。

Macquarie Bankが示したのは、全社展開を成功させる順序だ。まず1つの部門・1つの業務フローで「毎日使える体験」を作る。そこで成功パターンを固めてから横展開する。全社一斉より、「定着するモデルを1つ作る」ことに集中する方が結果的に早い。

規制業界でも、大規模組織でも、この設計原則は変わらない。

ドリップドリップ(執筆)

「AIを入れたのに使われていない」——そのモヤモヤ、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

Macquarie Bankが証明したのは、定着率は「ツールの良さ」ではなく「展開設計の良さ」で決まるということ。現場が自分事として使える余白を作ること、規制対応を先に整えること。この2つがここまでの差を生むとは、正直驚きでした。

まず1つの部署で「毎日使える体験」を作ることから始めてみてください。そこから全社への道は必ずつながります。

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