見積もりが3社分届いて、それぞれの単価・納期・最低発注量をスプレッドシートに転記する。交渉前にメールの文案を考えて、サプライヤー評価のレポートを書く。調達・購買の仕事は、こういった地道な作業の積み重ねで1日が終わっていく。本来やりたい仕入れ先の戦略的な開拓や、コスト削減施策の立案は、どうしても後回しになる。
その状況を根本から変えた事例がある。NECが自社開発した「調達交渉AIエージェント」は、約1,300品目の部品調達交渉を自動化し、自動合意達成率95%・交渉時間を数日から約80秒に短縮した。サプライヤーとの交渉を人間が介在しなくても成立させる水準まで到達している。自社でゼロから同じものを作るのは現実的ではない。ただ、今すぐ使えるAIツールでも調達業務の負荷はかなり下げられる。Geminiを使って何ができるか、3つに絞って整理した。
見積書の読み比べをGeminiに任せる
複数サプライヤーからの見積書を比べる作業は、単純なわりに時間がかかる。価格・納期・最低発注量・支払い条件など、チェック項目が多いからだ。担当者が3社分の数字を手動でまとめると、それだけで半日が終わることもある。
Geminiへの指示はシンプルでいい。「以下の3社の見積書を比較して、単価・納期・MOQ・支払い条件・保証条件の一覧表を作ってください。各社の有利点と不利な条件を指摘してください」と伝えて、見積書の内容を貼り付ける。PDFならGeminiのアップロード機能を使えば手入力も不要だ。
出力された比較表を叩き台にして、自分の判断を加える。AIが整理して人間が決める、この分担が一番うまくいく。日本製鉄が実践したように、定型的な転記・集計作業こそAIに最初に任せる仕事として最適だ。
交渉前の準備をGeminiにやらせる
交渉相手に対して、どこが突けるかを事前に把握しているだけで交渉の流れが変わる。準備なしで臨むのと、事前にシナリオを整理してから臨むのとでは、結果も違う。
「このサプライヤーとの過去の取引データを踏まえ、今回の価格交渉で使えるポイントと相手が反論しそうな論点を整理してください。また、価格を〇%下げる代わりに提案できる交換条件(発注量増加・支払い期間短縮など)の選択肢も出してください」
このプロンプトで交渉の準備メモが10分以内に完成する。交渉メール自体もGeminiで下書きできる。「先方が受け入れやすい書き方で、価格5%削減と納期7日短縮を依頼するメールを書いてください」と指示するだけでいい。文面の微調整は最後に自分でやれば十分だ。
サプライヤー評価レポートの下書きをAIに出させる
定期的なサプライヤー評価は、書き方のフォーマットが決まっていることが多い。品質・納期・価格・対応力の4項目を決まった書式でまとめる、という決まりきった作業なら、AIが得意な領域だ。
「以下の評価データをもとに、品質・納期・価格・対応力の4項目で評価したレポートの下書きを作ってください。各項目に評価コメントと次期契約の推奨度(継続推奨・条件付き継続・見直し推奨)を記載してください」
不良率・納期遵守率・価格変動の実績数値を貼り付ければ、コメント文の原案が数分で完成する。あとは自分の経験や感触を加えるだけで仕上がる。
NECの事例が示すように、調達業務でAIが担える範囲は思ったより広い。全部を自動化しなくていい。見積比較・交渉準備・評価レポートの3つから始めるだけで、週に数時間は取り戻せる。
コピペで使えるプロンプト集
① 見積書3社比較プロンプト
複数サプライヤーから見積書が届いたとき、比較表と推奨先の判断材料を素早く整理したい
あなたは購買・調達業務の専門アシスタントです。以下に【サプライヤー3社の見積書内容】を貼り付けます。次の手順で比較分析してください。 ステップ1:単価・最低発注量(MOQ)・リードタイム・支払い条件・保証条件の比較表を作成してください。 ステップ2:各社の有利な条件と不利な条件を3点ずつ整理してください。 ステップ3:総合的に推奨するサプライヤーと推奨理由を2文で述べてください。 【見積書内容(ここに貼り付け)】
② 交渉準備メモ&交渉メール作成プロンプト
取引先との価格・納期交渉の前に、交渉シナリオの準備と依頼メールを10分で仕上げたいとき
あなたは調達担当者の交渉準備アシスタントです。以下の情報をもとに交渉準備メモと交渉依頼メールを作成してください。 ■品目名:【〇〇】 ■ターゲット:価格【現行比〇%削減】、納期【〇営業日短縮】 ■過去の取引履歴:【価格推移・納期実績・クレーム履歴を箇条書きで】 出力1:交渉で使えるポイント(3点)と相手の反論&対応策(2点) 出力2:価格以外で提案できる交換条件の選択肢(発注量・支払い条件など) 出力3:件名を含む交渉依頼メールの文案(200字以内、丁寧かつ具体的に)
③ サプライヤー定期評価レポート下書きプロンプト
四半期・年次のサプライヤー評価レポートを数値データから素早く作成したいとき
あなたは調達部門の業務支援AIです。以下の評価データをもとに、サプライヤー定期評価レポートの下書きを作成してください。 ■評価対象:【サプライヤー名】/評価期間:【〇月〜〇月】 ■品質:不良品率【〇%】、クレーム件数【〇件】 ■納期:遵守率【〇%】、平均遅延日数【〇日】 ■価格:当初単価【〇円】→実績単価【〇円】(変動率【〇%】) ■対応力:緊急対応件数【〇件】、平均回答リードタイム【〇時間】 各項目をA〜Dで評価し、総合コメント(200字以内)と次期契約の推奨度(継続推奨・条件付き継続・見直し推奨)を出力してください。
調達の仕事って、意外と「書く作業」が多いですよね。見積もりの転記、交渉メールの文章考え、評価コメントの言語化……。
NECが80秒を実現したのは、まずAIに任せていい部分を徹底的に任せた積み重ねだと思います。自社開発AIと同じにはなれなくても、Geminiで地道に試す価値はあります。
小さいことから始めると、意外と早く「あ、これ任せられる」という感覚がつかめますよ。