知財担当者の仕事で一番時間を奪われるのは「読むこと」だ。毎週届く特許公報のリストを開き、クレームを読んで、競合に近いかどうかを判断する。この作業が週10〜15時間を超えることも珍しくない。
ChatGPTやClaudeに特許公報のテキストを貼り付けても、指示が曖昧だと要約で終わる。「スクリーニング」をAIにやらせるには、何を判断軸にするかを最初に伝えることが不可欠だ。ここをすっ飛ばすのが、結果が出ない人に共通する。
AIに渡すべき「判断軸」の組み立て方
たとえばこう指示する。「請求項1〜3の独立クレームを読み、弊社製品(○○機能を持つ装置)との技術的近さを3段階(要注意・参考・関係なし)で分類してください。判断の根拠となる構成要件を箇条書きで添えること」。これだけで、AIは分類作業を引き受けてくれる。要約を頼むのではなく、判定を頼む。この違いが大きい。
専門性の高い文書にAIを活用した実例として、塩野義製薬がある。日立製作所と開発した生成AI支援ソリューションを使い、治験総括報告書の作成時間を約50%削減した(2026年2月発表)。医薬品規制という精度最優先の領域でも、AIが専門文書の読解と初稿生成を担えることが証明されている。特許文書も同じ発想で効率化できる。
Cursorで特許公報を一括処理する3ステップ
まずJ-PlatPatで対象特許のリストをCSVエクスポートする。次にCursorのチャット欄で「このCSVの全件について、請求項1を抽出して要旨を100文字以内で要約するPythonスクリプトを書いて」と頼む。生成されたスクリプトを実行すると、Excelに要旨一覧が出力される。あとはClaudeに「この要旨の中から△△技術領域に近いものに★マークを付けて」と依頼するだけだ。
30件のスクリーニングが、従来の1〜2時間から15〜20分に縮む。人間のレビューを「★付きの案件だけ」に絞ることで、担当者の集中力を本当に必要な判断に向けられる。AIに業務文書を任せるときの指示設計と同じ考え方で、まず判断基準を整理することが先決だ。
精度を上げるシステムプロンプトの準備
毎回の指示を短くしたいなら、システムプロンプトをあらかじめ用意しておく。「弊社の主力製品は○○で、技術範囲は△△。避けるべきクレームの構成要件は□□」とまとめてAIに渡すと、毎回の説明が不要になる。最初の数件は人間がAIと並行してレビューし、「この判定は誤り、理由は〜」とフィードバックを重ねると精度が上がる。7割の精度で動かしながら磨く方が、完璧を待つより結果が出る。
コピペで使えるプロンプト集
① 特許スクリーニング依頼プロンプト
競合特許の優先度分類と要注意案件の洗い出し
あなたは知財・特許調査の専門アシスタントです。 【弊社製品の概要】 製品名:【例:○○センサー】 主な機能・構成要件:【例:赤外線検知モジュール+無線送信機能】 避けるべき技術範囲:【例:特定波長帯の検知方式】 以下の特許公報テキストを読み、独立クレーム(請求項1)の構成要件を抽出してください。その上で弊社製品との技術的近さを「要注意/参考/関係なし」の3段階で分類し、判断根拠を2〜3行で説明してください。 【特許公報テキスト】 (ここに公報テキストを貼り付け)
② 競合特許クレーム構成要件分解プロンプト
競合他社の特許の技術的範囲を把握し設計回避に活かす
あなたは特許クレーム解析の専門家です。 以下の特許公報の請求項全文を読み、次の形式で整理してください。 1. 独立クレーム(請求項1)の構成要件を番号付きで箇条書きにする 2. 各構成要件の技術的意味を1行で補足説明する 3. 設計回避を検討するなら注目すべき構成要件を1〜2つ指摘する 出願人:【例:株式会社○○】 公開番号:【例:特開2024-XXXXXX】 【請求項全文】 (ここに請求項を貼り付け)
③ 特許調査サマリーレポート作成プロンプト
上司や開発部門への特許調査結果の報告書を短時間で作成する
あなたは知財部員のアシスタントです。以下の特許スクリーニング結果をもとに、開発部門向けの調査サマリーを作成してください。 【調査目的】:【例:新製品Aに関連する先行技術の把握】 【調査対象期間】:【例:2022年〜2025年】 【要注意案件数】:【例:5件】 【参考案件数】:【例:12件】 出力形式: - 調査概要(3行以内) - 要注意案件の一覧(出願人・公開番号・注意理由) - 推奨アクション(設計回避検討・弁理士相談・継続監視等) - 次回調査推奨タイミング
知財の仕事って、「読む時間が長すぎる」わりに、その労力がなかなか評価されないですよね。
AIで「見るべき特許を絞り込む」だけで、担当者が本当に必要な判断に集中できるようになるのが、この仕事でのAI活用の面白いところだと思います。
まず1週間分の調査リストでAIを試してみると、手応えがつかめるはずです。