「この契約書、問題ない?」「○○省の新ガイドライン、もう確認した?」「競業避止条項ってどこまで有効なんだっけ」。法務担当者なら、こうした問い合わせを毎日受けている。一件丁寧に調べれば30分、件数が重なれば午前中が消える。
損保ジャパンは、社内で繰り返し来る問い合わせをAI(おしそんLLM)に任せる体制を構築し、照会対応の業務時間を40%削減した。全照会の約60%がAIだけで完結しているという。特別なシステムが必要というわけではない。繰り返し質問される内容をAIに読み込ませ、自動応答できる状態にした——それだけだ。
社内Q&Aの蓄積から始める
法務チームに来る社内問い合わせの多くは、繰り返しパターンだ。「有給の繰越上限は?」「機密保持契約の保持期間はどこに定める?」「インボイス番号って契約書に入れる必要ある?」——これらをClaudeやGeminiで回答案にまとめ、社内ドキュメントとして蓄積する。もう一歩進めるなら、Google Gemini Gemsに就業規則や契約書式集をアップロードして「社内Q&A担当AI」として設定しておく。問い合わせへの返答時間が、体感で半分以下になる。
契約書の「最初の一読」をClaudeに任せる
20ページの取引基本契約書をClaudeに貼り付けて「発注者(自社)にとって不利または注意が必要な条項を箇条書きで整理して」と指示する。完璧ではないが、弁護士への相談前の整理としては十分機能する。英文契約書の日本語要約、チェックリスト作成、リスク条項の抽出——このどれかに使うだけで、1件あたりの処理時間が大幅に変わる。最終判断は人間が行う前提で、AIを「最初の一読担当」として使うのがポイントだ。
規制調査はPerplexityで高速化する
「○○省が公表した△△ガイドラインの改正ポイントを出典URL付きでまとめて」という問いをPerplexityに投げると、ソースリンク付きで要点が返ってくる。法令改正のキャッチアップに毎週1〜2時間かけていた業務が、30分以下に収まることが多い。AIが返した内容は必ず一次ソース(官公庁サイト)で確認するが、そこにたどり着くまでの時間が劇的に短くなる。
三井住友銀行がGeminiで財務・法務書類を大量処理する取り組みでも、AI活用の前提として社内の既存ドキュメントを整理しておくことが重要だと述べられている。法務チームもQ&Aや契約書ひな形をデジタルで整理しておくと、AIへの接続がスムーズになる。
法律判断の代替にはならない。でも「調べる」「整理する」「叩き台を作る」の時間は確実に短縮できる。毎日の問い合わせ対応に追われているチームこそ、まず社内Q&Aの自動化から試してみてほしい。
コピペで使えるプロンプト集
① 契約書のリスク条項を整理してもらう
取引先から受け取った契約書を弁護士に渡す前に自己チェックしたいとき
あなたは法務担当者の補助AIです。 以下の契約書(または条項)を確認し、発注者(甲:【自社名】)にとって不利または注意が必要な条項を抽出してください。 【確認観点】 ・損害賠償の上限設定・免責条項 ・契約解除条件と通知期限 ・知的財産権の帰属 ・秘密保持義務の範囲と期間 出力形式:箇条書きで条項番号・内容・リスク概要をセットで記載。判断が難しい部分は「要専門家確認」と明示してください。 --- (ここに契約書の条文を貼り付けてください)
② 法令・規制改正の要点を出典付きでまとめる
業務に影響する法改正をすばやく把握し、一次ソースを確認したいとき
以下の法令・規制について、直近1年以内に公表または施行された改正内容を出典URL付きで要点まとめてください。 対象法令:【例:下請法、労働基準法 第○条、個人情報保護法 改正部分】 確認したいポイント: ・改正前後の変更点(具体的な数値・要件) ・施行日・猶予期間 ・企業(発注側・雇用側)が対応すべき実務上の変更点 信頼できる一次ソース(官公庁・所管省庁のウェブサイト)のURLを必ず含め、情報が確認できない場合はその旨明示してください。
③ 繰り返し来る社内問い合わせの回答テンプレートを作る
法務・総務に頻繁に寄せられる定番質問をあらかじめ回答化しておきたいとき
あなたは社内Q&A作成担当AIです。 以下の社内問い合わせに対する回答テンプレートを作成してください。 質問:【例:「育児休業取得後の有給休暇の扱いはどうなりますか?」】 回答テンプレートの構成: ・結論(1〜2文で端的に) ・根拠(社内規程・法令名と条項があれば記載) ・よくある誤解・注意点(1つ) ・担当者への相談が必要なケース 根拠が不明な部分は「要確認」と明示し、確認先の部門・窓口を示してください。
法務の仕事は「答えが決まっている」ものと「判断が必要」なものが混在していて、AI活用のしどころに悩む方も多いと思います。
損保ジャパンの事例が示すように、繰り返し来る照会対応こそAIが得意な領域です。まず「よく来る質問トップ5」をAIで回答テンプレート化するだけで、じわじわ効いてきます。
「代替」ではなく「速くする道具」として使い始めてみてください。