営業部のメンバーが、顧客との打ち合わせ内容をChatGPTに貼り付けて議事録を作っていた。情シスは知らなかった。そのデータには、まだ社外に出ていない新製品の価格が含まれていた。
こういった事態は、今やどの業界でも起きています。生成AIの普及とともに、IT部門の管理外でAIを使う「シャドーAI」は急速に広がっています。ツールを禁止しても、社員は個人のスマホや個人アカウントで使い続けるだけです。「禁止か解禁か」という議論より先に、「使ってよい範囲のルールを作る」方が現実に機能します。
まず「禁止入力リスト」を作る
ガイドライン整備に着手するとき、多くの情シス担当者はまず「どのツールを許可するか」から考え始めます。ただ、実際に効果が高いのはその前の一手です。「何を入力してはいけないか」を先に決める。
禁止入力に含めておくべき情報は、おおむね3カテゴリに整理できます。未発表の製品・価格・契約内容。顧客・取引先の個人情報。財務・人事に関わるデータ。この3つを明文化しておくだけで、情報漏洩リスクの大半をカバーできます。細かいケースは後から追加すれば十分で、最初から完璧にしようとしない方が運用が続きます。
利用率6割を実現したパナソニック コネクトの整備方法
ガイドラインを厳しくしすぎると社員が使わなくなり、成果が出ないまま終わる。そのパターンに陥らないためのヒントが、パナソニック コネクト株式会社の事例にあります。
同社は自社開発の生成AIアシスタント「ConnectAI」を軸に展開し、AIの利用ルールと使いやすい環境を同時に整備しました。2025年度の実績として、総労働時間の3.4%にあたる78.8万時間を削減。社内AI利用率は6割を超えています(パナソニック コネクト公式発表)。禁止事項を明確にしつつ「これなら使える」という範囲を丁寧に示したことが、高い利用率につながっています。
最初に整えるのは、この2枚
ガイドライン文書を大きく作る必要はありません。まず2枚のリストから始めると、運用に乗りやすくなります。
1枚目は「許可ツールリスト」です。ChatGPT・Claude・Copilot・Geminiのうち、社内で使ってよいツールを列挙します。個人アカウントの利用可否、法人プランの必要性なども合わせて明記します。2枚目は前述の「禁止入力リスト」。この2枚があれば、新入社員への説明も、部門長へのブリーフィングも、同じ資料で対応できます。
ツールを本格導入する際は、管理側の設定確認も必要です。たとえばMicrosoft 365 Copilotでは、エージェントのアップロード権限が全社員へ自動解放された変更があり、管理者が気づかないまま機能が有効になっているケースがあります。ツール選定と同じタイミングで、管理者設定の棚卸しも一度やっておくと安心です。
ルールは完璧である必要はありません。2枚のリストを作り、四半期ごとに更新する体制を整える。それだけでシャドーAIのリスクは大幅に変わります。
コピペで使えるプロンプト集
① 社内AI利用ガイドライン(禁止入力リスト)の初稿作成
情シス担当者が全社向けの禁止入力リストをゼロから作るとき
あなたは情報システム部門の担当者です。社内でChatGPT・Claude・Copilotなどの生成AIツールを業務利用するにあたり、社員が入力してはいけない情報の禁止リストを作成してください。 【会社規模】:【中堅製造業、従業員500名規模】 【主な業務】:【営業・設計・購買・総務】 【懸念する情報】:【顧客情報、設計図、未発表製品情報】 出力形式: - 禁止カテゴリ(大分類)とその具体例を3〜5カテゴリで整理 - 各カテゴリに「なぜ禁止か」を1文で添える - 判断に迷う「グレーゾーン」の例も3つ挙げ、対応方針を示す - 全体を社員向けの平易な日本語で書く
② シャドーAI防止のための社内周知メール作成
AIの無断業務利用を防ぐため、全社員へ注意喚起のメールを送るとき
あなたは情報システム部門の担当者です。社員が個人アカウントや非許可のAIツールを業務に使う「シャドーAI」を防ぐため、全社員への周知メールを作成してください。 【想定する読み手】:【全従業員(ITリテラシーにばらつきあり)】 【伝えたい内容】:【許可ツール一覧の存在、禁止入力事項、報告窓口の案内】 【トーン】:【脅かすのではなく、理由を説明して理解を得る形】 出力形式: - 件名(クリックしたくなる表現で) - 本文(300字以内、箇条書きを最小限にしてわかりやすく) - 最後に「不明な場合は情シスへ」の一文を入れる
③ AI活用ガイドライン「許可ツールリスト」のQ&A整備
社員からよく来る「このツールは使っていいの?」という問い合わせを減らしたいとき
あなたは情報システム部門の担当者です。社員から頻繁に寄せられるAIツール利用に関する質問を想定して、FAQを作成してください。 【許可しているツール】:【ChatGPT(法人プラン)、Microsoft 365 Copilot】 【禁止しているツール】:【個人アカウントのGemini・Claude、社外のAI画像生成ツール】 【よくある質問例】:【「スマホで使っても良いか」「Gmailで使ってよいか」「議事録に使っていいか」】 出力形式: - Q&A形式で5〜7問 - 各回答は2〜3文で端的に。「なぜそのルールか」を必ず含める - 最後に「このFAQに載っていない場合は情シスへ」で締める
AIって、使い方を決める前に「使い始めてしまう」のが悩ましいところですよね。
「禁止入力リスト」と「許可ツールリスト」の2枚というシンプルな整理は、現場でもすぐ動ける気がします。パナソニック コネクトの78.8万時間削減という数字も、ガイドライン整備がいかに重要かを示していますね。
まず2枚、今週中に作ってみてください。